「武家の商法」とは、武士や士族が商売を始めた際にしばしば失敗することを指す言葉で、良く使われる。その背景は、明治維新後に武士が商業活動に手を出し、失敗したことを象徴する言葉である。維新により、武士は従来の特権を失い、士族として新たな生活を始めることを余儀なくされ、これまで商売とは無縁であった彼らが、未経験の商業活動に挑戦することは確かに非常に困難であったと思う。しかし我々が今やっている「パンの販売活動」は決して武家の商法ではない。
一方、「道楽」という言葉がある。自分の生活の中に仕事とは別に熱中できる趣味にふけり、それを楽しむことの意味であるが、酒、色ごと、博打などの遊興にふけることも道楽にふけると言う。今私が集中してやっている「パン事業」は決して理事長の道楽ではない。後述するように明確な「志」を持ってやっている「偉大なる実験」である。
理事長とは、法人格を持つ組織において理事の代表を務める立場であり、組織の意思決定や対外的な代表を担い、株式会社の「社長」や「代表取締役」とは異なり、理事長は法人の種類ごとに法律で定められた役割を持っている。理事長の定義は学校法人・医療法人・社会福祉法人・一般社団法人など、多くの法人で設置される役職であり、理事会における理事の代表であり、法人を対外的に代表する「代表権」を持っている。たとえば学校法人では教育方針や経営方針を決定し、医療法人では病院経営や人事管理を統括する。理事長は理事会の意思をまとめるだけでなく、「法人全体をけん引するリーダー」としての役割を持ち、公益法人組織の方向性や社会的責任を担う重要な立場が一般の会社のトップとの大きな違いである。単なる利益追求のお金儲けの話だけではないのである。
今から2年前、私は「(株)浪速教育振興(NEP)」という民間会社を法人登記した。学校法人の持株会社である。世は「教員の働き方改革」の大合唱がかまびすしく、逆に「少子高齢化社会」がすさまじい勢いで進展している。そのような中で「人生百年時代」の言葉が躍り、今でこそ学校法人私立中学校・高等学校は他から見ると「勢いのある学校」と見られているがこれなどはかないもので何時、危機を迎えるかも知れない。「いかにして本校で学びたいという生徒を確保するか?」の大きな命題は今後とも変わることはない。「元気な今がチャンス」と心得、生き延びる手を今から考え、手を打っておかねばならない。
公益学校法人としては出来ることは限界があるが民間会社NEPなら範囲は広がる。現在本校の教職員の定年は65歳としているが、健康寿命の範囲内とご本人の意思が有ればNEPを通して「学校の仕事の数」を増やせないだろうか?とも考える。本校に継続して働いて欲しいのだ。新たな事業展開はないのか?学校の門塀を開放し地域との連携を拡大出来ないのか?商品の流通をもっと合理化し生産者から直接、学校に届ける方法はないのか?等々考えればアイデアがまだまだ浮かんでくる。その偉大なる実験が「焼き立てパン・ブルのパン販売拡大と外販事業」である。あくまで大きな実験である。この道が法人が補助金を付けた「福利厚生事業」みたいな形?になるのか、結論は来年度中に出すことになろう。武家の商法、理事長の道楽と言われる前に形を決めたいと思う。何時までも理事長が生徒とニコヤカに笑いながらパン販売の先頭に立つことの時間は限られている。
