理事長室の執務室の東側の道路は阪和線の我孫子町駅、杉本町駅に通じる要路でここを受験生が通るから、今朝は部屋のブラインドを下ろした。外を眺めると順序だって受験生が北側の正門に黙々と向かっている。本校では6個の大きな門があるが、正門のみが生徒や教職員の入る門である。正門に向かうもう一つの駅は南海高野線の我孫子前駅であり、ここからも受験生は正門に向かってくる。学校としては受験生の安全管理の面からそれぞれの駅から正門までの要所、要所に「腕章を付けた教員」が立ち、道案内を行う。昨日の段階で本日の学力試験に何らかの理由で来られない受験生の数は既に把握しているが、今朝段階での連絡が加わり、とにかく試験が始まる「8時30分の点呼」まで最終数値は把握出来ない。あるいは試験途中で体調不良に陥る生徒も出て来る可能性があるから、今年の入試は例年と大いに様相が異なっている。全てはコロナの影響である。
受験生が次々と登校して来る様子を眺め続けて最早16年も経った。毎年毎年、この時の気分は「いわく言い難し」である。年毎に受験生が増え続け、今年はひょっとしたら過去最高の入学者数になるかも知れないというのは、正直「嬉しさ半分、責任感半分」と言ったところか。執務室には校内放送が感度の良いスピーカーで流されており、8時45分「チャイムが鳴り」試験前の注意放送が始まった。良い声だ。ゆったりと聞こえ、抑揚も良い。「問題配布の時間です、監督の先生は問題を配布してください」との声が流れた。その後も「問題配布の時間ですが受験生皆さんにお願いです。・・・マスクの着用をお願いしす。・・・」云々との内容もあった。その後問題用紙と解答用紙の確認作業などの注意があって、そして8時50分、チャイムが再び鳴って「筆答を開始してください」で始まった。このパターンが次の数学、英語、昼食休憩を挟んで午後の理科、社会まで続く。全ての試験が終わるのは14時55分で寸分違わずきっちりと終わった。
予報では9時過ぎに小雨であったが昼過ぎに小粒の水滴が落ちて来た程度で、その後はその気配はなかった。受験生は薄曇りの中でそれほど体感的には寒くない状態で登校、下校できたのは大変に良かった。本日の受験欠席者の数はここでは書けないが、まあ大体このような感じか、受験生の数の多さからすれば少ないと言えるのかも知れない。校長から理事長に対して「試験が無事に始まりました。欠席連絡が事前にあった受験生以外は全員来ています」との報告が8時55分、そして9時10分、入試広報教頭から「欠席者の詳細な数値」の報告が私にもたらされた。こういう緊張感の有る重要な仕事というか作業は「スタートが大事」であり、管理職を中心にここさえ押さえておけば「始め良ければ全て良し」となるものである。良いスタートが切れたと喜んでいる。
昨日の段階で私は高校校長に対して「・・・特に教員の服装について留意の事・・・」とアドバイスをしていたが今朝の職員朝礼で観察すると男女共に全員がダークなスーツに身を纏っていた。問題ない。大学受験でも、そうだが、およそ受験という受験の会場では受け入れる側、監督する側の職員の服装というか「ドレスコード」は案外と重要である。それは誇張して言えば受験生にとって「人生がかかっている」と言っても過言ではない試験会場ではそれなりの「礼節みたいなもの」があって良いし、それに砕けた明るい色のジャケットやセーター姿などは少なからず受験生にも「違和感」を与えるかも知れないからである。だから歌舞伎や文楽みたいに試験監督側は「ピシッとした服装の黒子」というのが私の哲学であり、これは今や「浪速の文化」となっている。
予定通りに試験は無事に終了したがこれで「バイバイ」とせず、合否通知の発送先の住所の確認やWEB発表の要領、そして本校の「生徒規則などの文書を黙読」して貰うなどの作業が続く。ある意味、こちらの方が大切である。そして最後は下校である。2000人を超える受験生を一度に解放すれば道路や駅のプラットホームが大混雑し転落でもしたら大変だから「時間差下校」を行う。最後の受験生が正門を全て出た段階で本部である中央館ホーから舞台は採点会場に移る。本格的に今年から5階の各教室で教員はPCを使った「デジタル採点」である。しかし今日は少し疲れているだろうから採点は遅くまでやらないで早めに切り上げる。とにかく「マニュアル通り」に動くことが大切であり、教務部長を中心とする入試作業執行役員が長い年月をかけて作って来た教本である。好き勝手な判断や行動は駄目だと誰もが知っている浪速方式である。ここまで徹底してやりきる学校もそう多くはなかろう。緊張し疲れるが受験生の事を考えればやるしかない。「私立にとって受験生は宝物」であるからだ。このセンスが無いようでは本校では務まらないだろう。