姫路は近い。本当に近い。朝8時に迎えの車に乗って新大阪へ。新幹線に乗って姫路に着いたのが9時20分頃、用事を済ませて学校に帰着したのが12時過ぎだったから本当に近い。これが車だったら、こうは行かなかったと思う。新幹線の威力をつくづくと感じた日となった。今日は姫路の「山陽百貨店」が目的の場所であった。北口からは遠くに姫路城が目に飛び込んでくる。駅ビルに近い山陽百貨店、この百貨店という表現が「昭和の味」がして、実に新鮮に思えた。デパートなどよりも余程良い感じで面白い。10時オープンで時間潰しにプロントという喫茶店に入って、最近嗜むようになったコーヒーを飲んだ。レギュラーサイズで290円だった。ここまででまだ9時50分だ。駅ビルの中を少し散策したら、姫路名物「御座候」が目に入って来た。何時もなんば高島屋で買っていた「御座候」は姫路名物だったんだと、この時点で知った。他に伝助あなご、日本酒、和菓子など姫路には旨いものが多そうな町である。
10時ジャストにプロントを出て百貨店に向かった。今日の目的は焼き物作家の不走庵、13代三輪窯の三輪休雪先生の作品展を観に行く事であった。萩藩の御用窯と人間国宝を父に持ち、米国留学も経験されている正真正銘の実力派作家である。元来は会場に先生がおられる日に行くべきであったが、公務でどうしても叶わず、最終日の今日になってしまった。先生自ら直筆で宛名を書いて下さり、図録を送って下さっており、私が行かないわけには行かず、最終日の今日になってしまった。これが「男の義理と人情」である。時は進み、10時45分、用事を済ませ、私は姫路駅のホームのベンチに据わって新幹線を待っている。10時53分発で新大阪は11時23分着とキップに印刷していた。わずか30分で到着する。姫路と大阪は本当に近い。実は昨日、常務理事に聞かれたので「新幹線で行くよ」と言ったら「安心しました」と言っていた意味がこの時に分かったのである。
萩焼三輪窯の三輪休雪先生を今年の5月に萩まで訪ねてお会いした。素晴らしいお人柄で伝統を背負った上で「常に革新を求めるスタイル」が極めて良い。この時にこの作家の作品を100周年記念にと決めたのである。最初に目に止まった「花入れ」と「茶碗」の二つであるが、作品の感じも予算も私にぴたりと合致した。結論は花入れにした。99万円であった。今は創立99年であり、これも不思議な感じである。三輪窯の特長は表面の「白の釉薬」にある。「休雪白(きゅうせつしろ)」と言ってこの白さが品格と純真さを示し、他には真似の出来ない白である。胎土は荒々しく削りの跡も力強く、本校100年を祝福し、今後の生命力をまさに謳っていることを私は感じた。
大きな作品であるが、今日の作品は実際に花を活けており、より大きく美しく見えた。この花入れに「茶花」をさして床の間に置くとその存在感はあたりを圧倒するかもしれないが、それを白の釉薬が抑えるように品位を保っている。見れば見るほど素晴らしい作品に巡りあった感じで私は喜んで購入することを決めたのである。「茶席のお道具」は亭主が選び、お客に物言わず語りかける物が良い。浪速100年を寿ぐ記念の町は姫路、場所は山陽百貨店、作品は三輪窯13代三輪休雪の花入れ、そういう訳で今日は本校100周年にとっても記念の日になったと思う。来年、歳が明けたら、2月頃に「100周年記念の茶会を表千家木村宗匠のお席」でこの花入れはお目見えすることになるだろう。