良い事は続くもので、個人の趣味の範囲であるが、遂に「井戸茶碗のかいらぎ(梅花皮)」が出た。悪戦苦闘した1年と2か月間であった。未だに信じられないが間違いなく茶碗の外部の高台周りに「釉薬が縮んで溶け残った状態のかいらぎ」が出た。井戸茶碗の第一の約束事であるこの“梅花皮(かいらぎ)”を出すのはプロの作家さんでも簡単な話ではない。それがようやく素人の私にも焼けたのである。遂に私の手になる「井戸茶碗らしき」ものが焼けた。井戸は日本の茶人に好まれた茶碗で「一井戸
二楽 三唐津」と言われた程の垂涎の茶碗で国宝の「喜左衛門井戸」は余りにも有名である。私は今から45年くらい前にこの国宝「喜左衛門」を東京の国立博物館で観覧し、見た瞬間から身体が緊張するくらい震えた。要は取り憑かれたのである。
そして温めていた思いが募り、何とか自分も井戸茶碗らしきものを作り、本校茶道部やゆかりの人々に「私が生きていた証」としてにプレゼントしたいと考えるようになった。2022年4月に心に決め、以来、暇を見つけては千早赤阪村の「多聞茶寮」にて、挑戦してきた。100周年記念事業で気の使う超多忙な毎日であったが「忙しいとき故にこそ集中できる」のであって、まさに「忙中閑あり」を地でいくような毎日だった。しかし粘土を変え、釉薬を変え、窯は電気窯まで用意し、トライしてきたが、駄目だった。実際に釉薬をかけ、窯で火を入れた回数は50回を軽く超えているが、作品は酷い結果であった。しかし文献を読み、人の話を聞き、材料屋さんに教わって来た。勿論一個一個条件は変えてトライした。それでも駄目で「もう諦めるか」と思った最中に出たのである。神様も味な事をなさる。