「胸を借りる」という言葉があるが、この意味は「下の者が、自分より実力や実績が上の者に練習の相手をしてもらうこと」である。自分の力を伸ばしたり、自分の能力を試すためにあえて強い人に相手をしてもらうことが胸を借りるの意味で、自分よりも優秀な人と練習をすると、レベルアップしやすくなるからである。「借りる」は「協力する、手助けする」という意味があり、元々は相撲において、下位のお相撲さんが上位の力士にぶつかり稽古の相手をしてもらうことを表していた。ぶつかり稽古は受ける側とぶつかる側を区別して、進める稽古のことで、「横綱の胸を借りる」「大関の胸を借りる」といったように使われている。
そういう意味で3月20日の高天原スポーツキャンパス「乾坤一擲ドリームフィールド(Kフィールド)」でのラグビーでのこけら落としの試合は招待したチームの「常翔学園高等学校ラグビー部」は大横綱であった。全国優勝を何度も経験したまさに全国区の強豪校が良く来てくれたものだ。これは本校校長の飯田先生の長年のラグビー界に果たしたご功績の賜物だろう。常翔さんはトップ選手を連れてきてくれ、まさに「胸を貸してくれた」。スコアは今更どうでも良いが多くの事を本校の選手はこの試合から学んだことだろう。これが大切である。
試合を見ていて私は感じた。ラグビーは15人の選手が戦う団体競技であるが、個人競技と違って実力の差は「歴然と」「嘘偽りなく」出るもので、大きな力の差であれば1点さえ相手からは取れない過酷なスポーツである。個人競技だとその日の調子や相手の弱点を突けば勝てる可能性は1%くらいは有るものだが団体競技では不可能で徹底してやられる。まさに「弾き飛ばされる」感じである。見ていて気持ちが良いくらいの「負けっぷり」の試合内容であった。本校の選手もくらいついて頑張っていたが岩盤はビクともしなかった。相手チームも手を抜かないところが良かった。お祝いだと言ってご祝儀に点をくれたらこの試合は美しくなかった。この点も私は常翔さんに感謝である。
スポーツとは違うが私は組織もこのような選手の集まる形が望ましい。しかし現実は100人、200人の教員集団たる学校はそうはいかない。素晴らしい教員、まあ普通の教員、課題を抱える教員、これらの三つが複合しているのが学校は言うに及ばずどの組織にも共通であろう。大切なことはそれぞれが自分の実力を自覚して更に自分を高める努力を継続することである。ここで問題は全員がベクトルを合わせることで「あっちこっちバラバラ」に方向が違えばなるものはならない。
人間の能力が全く同じであるはずはなく、組織の長たる者は、それを前提として組織力を高めていくことが求められ、それが「リーダーシップ」である。スポーツ競技の素晴らしい監督さんはそれが出来ている。常翔学園さんのラグビー部のあの有名な野上監督さんは社会科の教諭でラグビー部の部長、監督、確かに人間として幅の広い、礼儀正しい立派なリーダーだった。会えて良かったと私は喜んでいる。実に気持ちの良い素晴らしい一日だった。